酔いどれデザイン日誌 - Drunken Design Diary -

都内でデザインファームを営む酔っ払いが、UI/UX論やデザイン思考論を書き殴ります。

都内でデザインファームを営む酔っ払いが、UI/UX論やデザイン思考論を書き殴ります。

バッドデザイン賞を勝手にノミネートしてみた-2017年度版-

忙しい年の瀬ですが、皆さま如何お過ごしでしょうか。

さて、皆さんは「グッドデザイン賞はあるのにバッドデザイン賞が無いのはおかしい」という風に思ったことはありませんか?私は職業柄、日常生活で見かけた良いデザイン事例と悪いデザイン事例を写真に撮ってストックしているのですが、その中には「本当にこれギャグじゃないの?」というレベルのバッドデザインがあったりするんですよね。

良いものを良いと評価することも大切ですが、良くないものを無視するのは人類の進歩に大きな影を落としているような気さえします。ということで、勝手にアワード化してしまいました。2017と付いてますが、私が見つけたのが2017年だったというだけで製造年度などとの相関性はなく、特に意味はないです。あくまでジョークコンテンツとしてお楽しみください。

【追記】Twitterの方で一部画像が自分で撮影したものではないのでは?とご指摘頂きました。確認調査してみましたが、No.3にネット上で拾ってきた事例の画像が混じってしまったようです。お詫び申し上げると共に、来年度版を実施する場合は、掲載写真の管理を徹底するよう注意致します。すみません。

本アワードで扱うバッドデザインの定義

  • 誤操作や誤認を誘発する意匠
  • 身体的な危険が伴う意匠
  • 精神的な不快感を誘発する意匠
  • 情報が全く伝わらない意匠
  • 課題とソリューションが大きく乖離した意匠

※なお「ダサい」「カッコ悪い」などの主観的なバッドデザインはノミネート対象外とする。

このアワードを通じて普段当たり前のように享受しているデザイン(DESIGN)の大切さと、プロジェクトにデザイナーを入れることの重要性を感じて頂ければ幸いです。

また、自分も渾身のバッドデザイン事例をお持ちだという方は是非「#バッドデザイン賞2017」でTwitterなりInstagramなりにノミネート(投稿)してみてください。あとでエゴサしてニヤニヤします。

バッドデザイン賞ノミネート作品一覧

今回は2017年に撮影したバッドデザイン事例の中でも、選りすぐりのレジェンド級バッドデザインたちを部門別にノミネートさせて頂きました。街中で撮影する都合上プロダクトの事例が多くなっていますが、特に他意はありません。それでは行ってみましょう!

No.1「危険そうなボタン」

f:id:information_architecture:20171206165121j:plain

【ノミネートコメント】

巨大な筐体に1つだけ搭載されたボタン。押したらヤバそうなカラーリング。ダメ押しで注意の表記。このいかにも危険そうなボタン、実は「エレベーターの呼び出しボタン」である。誰が押すんだこのデザイン・・・金沢の地下通路で発見。

良く見ると下の方に車椅子専用のボタンが付いているが、多分車椅子の人も赤色と注意書きしか目に入らないんじゃないかな。 どう見ても非常ベルが鳴りそうな、見事な誤認デザイン部門ノミネート作品である。

【追記】「注意」のところに何て書いてあるか読めねーよというご意見が多かったので追記します。「戸に触れないこと。けがをする恐れがあります。」と書かれています。なぜ戸に貼らなかった・・・

No.2「フェイクボタンonテプラ」

f:id:information_architecture:20171206165141j:plain

【ノミネートコメント】

エレベーターつながりでもう1事例。私はこの時生まれて初めてボタンに「ボタン」というテプラが貼られているのを見た。

どう見ても光っている部分の階数が書いてあるブロックがボタンにしか見えない。というか実際テプラがあってもそちらを押してしまった。

シグニファイア(可能性を示唆する意匠)が完全に逆に作用した錯視効果の極致であり、人間は本能的に一番出っ張っているところを押したくなるものなのだという事を再確認させてくれる悟りプロダクト。

何故ボタンと階数表記を並べなかったのか。というかボタンを光らせるのではダメだったのか。考え始めると疑問が尽きない、見事な誤操作デザイン部門ノミネート作品である。

No.3「デュアルテプラ」

f:id:information_architecture:20171206165201j:plain

【追記】こちらの写真は、Twitterで静岡茶さまが公開されたツイートからの転載になります。

【ノミネートコメント】

テプラと言えば貼られたらデザイナーの負けでおなじみだが、これは滅多にお目にかかれない1つのアイコンに2つのテプラが貼られてしまった事例だ。

アイコンだけでは意味が伝わりきらない問題は遥か昔から言われ続けているが、アイコンが何の絵なのかまで併記されたのはこれが歴史上初ではないだろうか。

恐らくスタイリッシュにしようと曲線を極力排除した結果、注射器にしか見えなくなって救護室と間違えて入ってくる人が多かったのだと推測される。

無駄にスタイリッシュにしてもロクなことにならないという教訓を我々に与えてくれる、見事な意味が伝わらない部門ノミネート作品である。

No.4「乱視案内板」

f:id:information_architecture:20171206165217j:plain

【ノミネートコメント】

もう、見たまんまである。新木場で発見。案内板としての意味を全く成していないので、都は今すぐ撤去して再施工すべきだと思う。

この案内板がどうなっているかというと、古い案内板の上に(前の案内板を剥がさずに)新しい案内板が張られているのでバックライトで透け透けになっているのだ。雑施工極まりない。

なおこの状態になるのは夜間のみであり、昼間は普通に読める。バックライトが付いてる事を確認して施工すればこんな面白いことにはならなかっただろうと思うと、ある意味公共工事の怠慢が生んだ奇跡の産物と言える。

仕様の確認とチェックフローは怠らないようにしようという戒めを我々に教えてくれる、見事な意味が伝わらない部門/イージーミス特別賞ノミネート作品である。

No.5「ふれあえない灯」

f:id:information_architecture:20171219230615j:plain

【ノミネートコメント】

「ふれあい灯」と称されたこの装置は、ボタン押すと上に搭載されたランプが光り、けたたましい音が鳴って周囲の人の視線を集めることで困った人を助けることができるのだそうだ。・・・え?

取り扱い説明には「(中略)外国人の方で、お手伝いを必要とされる方のための〜」とあるが、英語表記は一切無い。ゆえに外国人が困ってもこれを押すことは絶対に無い。

また下段には「このランプが点滅していたら、お手数ですが近くの社員をお呼び止め〜」とあるが、なぜ他の客にそれをやらせるのか理解が及ばない。ランプも音も無くして社員の持ってる端末に直接通知が飛ぶとかではダメだったのか・・・というか困ってる人が直接社員を呼び止めるではダメだったのか・・・

そもそも困っている時にわざわざボタンのところまで移動する人が居るのだろうか。人は大抵、困ったことが起こったその場所で人を呼び止めるものである。ソリューションとしても入り口で「要介助/need help」と書かれた名札を配った方がはるかに効果的で安上がりな気がする。

360°あらゆる方向にツッコミどころ満載な、見事なソリューション乖離部門ノミネート作品である。

No.6「孔明の罠」

f:id:information_architecture:20171206165254j:plain

【ノミネートコメント】

写真では分かりにくいと思うが、全く同じデザインの2枚の連続したドアがあり、手前側がスライド式の自動ドア、奥側が観音開きの手動ドアになっている。これは本当に危ない。

タチの悪いことに手前(1枚目)が自動なので、2枚目も自動と誤認させ高確率でガラスに衝突するような巧妙なトラップになっている。実際撮影中にサラリーマンが何人か激突していた。これはきっと諸葛孔明の仕業に違いない。もし手動と自動が逆の順番ならここまで危険にはなっていなかっただろう。

このビルを設計した人は、カッコよくて美しいエントランスの設計図を引くより先に、人間工学と認知心理学の基本をきっちり勉強してきた方が良いと思う。

同じ形=同じ振る舞いを期待するシグニファイア(可能性を示唆する意匠)の原則を逆手に取った、非常に狡猾かつ巧妙な身体危険部門ノミネート作品である。

生活者がフィードバックすることで住みやすい社会を作って行こう

如何だったでしょうか。人様のつくったものを気安くバッド呼ばわりするのは正直気がひけるのですが、誤操作や誤認は時に身体や資産に大きな損害を与える危険をも孕んでいることが理解できたかと思います。

たかがデザイン、されどデザイン。目先の格好良さや目新しいソリューションを採用しようとする前に一度立ち止まり、デザインの基本の一つである「正しく伝える」ことを意識することの重要性を改めて認識していただければ幸いです。

これからも引き続き街中のグッドデザインとバッドデザインを勝手に収集していくつもりなので、気が向いたら2018年版もやるかもしれません。

なお、今回はあくまで私のバッドデザイン事例ストックの中からのノミネートなので、世界全体に無数にあるバッドデザインのほんの一部にすぎません。

私は生活者全員がバッドデザインをフィードバックしていくことで、世の中が少しずつでも暮らしやすくなっていくことを望んでいます。

ユーザーが正しくフィードバックを行える習慣が根付けば、企業が高いお金と長い時間をかけてユーザー調査などする必要がなくなるのです。せっかくのインターネット社会なのですから、どんどん活用していきましょう。

皆さんも普段疑問に思っていたバッドデザインをどんどん発信してみてください。いつかそれが設計者の目に留まり、改善されていくかもしれませんよ。