どうもこんにちは。最近本格的に自分がデザイナーなのかプランナーなのか分からなくなってきた、おりです。今日のお題は「シグニファイア」です。聞いたことが無い?安心してください。私も今朝知りました。
どこで知ったかというと、「UI/UXなUXのお話」こちらのスライドを拝見した際に知ったのですが、大変共感できる内容が書かれていましたので今回はシグニファイアと人間中心設計の関係性について考えたいと思います。
目次
アフォーダンスという言葉
皆さんは「アフォーダンス」という言葉を聞いたことがありますか?これは認知心理学の分野で古くから使われてきた造語で、小難しい定義を抜きにして平たく言うと「椅子は座るというアフォーダンス(可能性の提示)を持っている。」といった具合に利用します。
アフォーダンスの概念は、UIデザインを嗜む諸兄なら一度は聞いたことがあるでしょうD.A.ノーマン氏によって世界に広められた事で有名なのですが、しかし!どうやらこの言葉の使い方が本来の「アフォーダンス」の意味と乖離していたようなのです。今までずっとアフォーダンスという言葉を得意げに使っていたのでちょっと恥ずかしい思いで一杯なのですが、これを読んでいる皆様はもう大丈夫。明日からは赤っ恥をかかずにすみます。
シグニファイアの概念
では、本来のアフォーダンスって何なのさ?シグニファイアってどっから出てきたの?という事を説明したいのですが、いかんせん小難しい理論に満ち溢れているのでイラストで説明します。
ここに1本の道と歩く人が居ます。この図において道は、人はじめとした生物が沿って歩く事をアフォード(アフォーダンスの語源)しています。では、この先の二股で右に行かせたいと思った時、あなたはどうしますか?
白線を引く、標識を立てるなど、答えは色々考えられますが、どの答えにしろ、道もしくはその周辺に何らかの意図を持った要素を追加して人を誘導しようとしませんでしたか?その意図を持ったアフォーダンスこそがシグニファイアと呼ばれる概念なのです。
つまり何が言いたいかというと、凡そ全てのデザインと呼ばれるものに使われているのは、実はアフォーダンスではなくシグニファイアだったのです!これはびっくりだ!
ちなみにこの「シグニファイア」という言葉は、他でもないアフォーダンスの誤用を世界に広めたD.A.ノーマン氏自身によって提唱されている言葉です。
念のため断っておきますが、私はノーマン氏の本を読んでアフォーダンスを誤用していたわけではなく、本来の意味のアフォーダンスの概念を知ってからずっと「これこそアフォーダンスに違いない!」と思い込んで知覚されたアフォーダンス(=シグニファイア)をアフォーダンスとして勝手にUIデザインに応用して使っていました。要するにノーマン先生と同じ事してました・・・。
シグニファイアからUXデザインへ
さて、シグニファイアの概念が分かった所でこれをUIデザインに実際に活かして行きたいわけなのですが、私がシグニファイアという言葉を知ることになった冒頭で紹介したこちらのスライドの後半部分でとても良い事を言っています。
開発者は道具の機能や中身を知ってしまっているためUIの操作(利用手順)を中心にデザインしがち。本来重要なのは「ユーザーの頭の中」を中心にデザインすること。
要約すると、UIとはユーザーのやりたいこと(ニーズ)を満たす為に提供すべきものであり、決してその操作を完遂する為に提供するのではない。という事です。認識違ってたらゴメンナサイ。
ニコニコプレーヤーの失敗から学ぶ「UXの為のUI」の問題点とは - とあるWEBデザイナーの情報設計(インフォメーション・アーキテクチャ)
以前の記事で取り上げたニコニコプレーヤーの失敗を例に挙げるならば、プレーヤーは「動画を見たい」というユーザーのやりたいことを満たす為に提供すべきであり、他人へのレコメンドのしやすさ、コメント編集のしやすさ、マイリスト登録のしやすさ等々の機能的な操作を如何にスムーズに行えるかについて突き詰めるのは間違っている。という事になります。あの例では機能面強化によるプレーヤーの負荷増大によって、実際そういったユーザーの反発事例がありましたね。ユーザーにとって「コメントがしやすい」と「動画が視聴しやすい」は別次元の欲求の為、開発者が考える「コメント機能が充実したから多少重くなるのは当然」は全く通用しないのです。
プロダクトの操作をよりスムーズにする為にユーザーに使いやすいインターフェースを作るという視点。これがD.A.ノーマン氏の説いたシグニファイアを用いた人間中心設計の基本的な考え方であり、ニコニコプレーヤーリニューアル時にも用いられたと思われる方法論なのですが、私は個人的に、上で紹介したスライドで示されているようにプロダクトを通じてユーザーの欲求をスムーズに満たす事の出来るインターフェースを作るという視点。すなわち、UXデザインの思考プロセスによって導き出されたシグニファイアの集合体こそ、真の人間中心設計であると考えています。
【図解】機能合理型のシグニファイアとUXデザイン思考プロセス型のシグニファイアの違い今適当に考えた、機能合理型のシグニファイアと、UXデザイン思考プロセスに寄せた欲求リード型シグニファイアを用いたテレビリモコンの設計図です。
テレビをいち早く点けて番組を見る為のデザインか、番組を見る為にいち早くテレビを点ける為のデザインか。これって実は、同じことをプロダクト側視点かユーザー側視点かで言いかえているだけなのですが、そのわずかな言い換えによって上記図のように最終的なプロダクトやインターフェースに大きな差が生まれます。
ゲームのオートセーブ機能とかも考え方が似てます。所謂「設計思想」というやつが根底から違うので同じ制作プロセスを踏んでも全く違うものが出来上がるのですね。
まとめ
- デザインの世界ではアフォーダンスではなくシグニファイアを用いるべき
- 機能を完遂しやすいUIデザインだけが人間中心設計の本質ではない
- 機能合理型シグニファイアだけでは良いUXは得られない
個人的な雑感ですが、優れたエンジニアは機能合理型のシグニファイアを用いた設計に長けており、優れたデザイナーはUXデザインプロセス型のシグニファイアに長けていると感じます。別にこれらに優劣の関係性はなく、扱うサービスや内容によってその性質を上手くバランス調整する事が肝心なのだと思います。
危うく忘れそうになりますが、このブログが扱っているのは情報アーキテクチャ(IA)の考え方に基づいた諸々の方法論などの考察です。複雑な情報の渦の中からユーザーの「やりたいこと」を素早く発見出来るようにファインダビリティを向上してあげるのもまた、情報アーキテクチャ(IA)の領域です。もしIAやUIデザイナーといった役割でプロジェクトにアサインされる機会があれば、このUXデザインプロセス型のシグニファイアの考え方を意識しながら設計してみては如何でしょうか?きっと、UIというものを部品単位ではなく、操作前や操作後も含む画面全体、さらにはユーザー属性によってどう出しわけるべきかなど、より広い視点で考えられるようになると思います。
私もまだまだこの視点を完璧には使いこなせないので、もっと実地経験を積みながら身に着けていきたいですね。
あ、ちなみにここでちょこちょこ出してる「人間中心設計」というものについて、今度「HCD-人間中心設計推進機構-」の資格試験を受けてみようと思います。個人的には人間中心思考で設計をする事など当然の事だろうと思っているので、わざわざこんな堅苦しい資格制度を設けること自体には反対なのですが、まだまだ世間の認知や啓蒙が追いついていない現状を鑑みて利害が一致していましたので、一員として人間中心設計の考え方を広めていきたいという想いもあり、この度受験を決意しました。
とはいえ、実務経験的な縛りでまだ専門家試験は受けられないのでまずはスペシャリスト試験からになり、受かるかどうかも分からないのですけどね。別に受からなくても勝手に私なりの考え方は広めていきますけどね。
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